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私たちが付き合ってるという噂が社内に広がってから、何人か私を敵視する人が出てきた。
武士さんは仕事もできるし、優しいし人気者だ。
仕方ない。
でも。
「婚約破棄されてすぐに違う男とつきあうなんて、元から二股かけて振られたんじゃないの?」
そんなことを聞えよがしに言われるのは、正直辛かった。
その日も社食で聞えよがしな嫌味を言われていると、私の隣に、武士さんが座った。
「根も葉もない噂で人を貶めて、何が楽しいんだろうね。そんなことをして、誰かに想いを寄せてもらえるとでも思ってるのかな。俺だったら、絶対嫌だけど」
はっきり、よく通る声で武士さんが言うと、社食の中が、シン、となった。
それ以来、嫌味を言われることは全くなくなって、逆にご機嫌とりみたいに私に擦り寄ってくる人が増えたけど、私は誰に対しても平等に接して、絶対に人の悪口に誘い込まれないようにした。
私を悪く言っていた人と同じ土俵に立ちたくなかったからだ。
そして土曜日。
武士さんはパリッとしたスーツを着て、髪型を整えて私のマンションまで迎えに来た。
実家までは車で一時間、電車で二時間といった所だ。
車を止める場所がないといけないので、電車で行くことにした。
いつもより口数の少ない武士さん。
「緊張、してますか?」
「そりゃね。好きな子のご両親には気にいられたいし。ましてや同棲の許可を得にいくんだから、緊張するよ」
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