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翌週末、武士さんのご実家にご挨拶に伺った。
武士さんはお父さん似で、武士さんが歳を重ねたらこうなるんだろうなって予想ができる感じだった。
お母さんは、のんびりした感じの人。
「俺が嫁にしたい人」
客間に通されるなり、武士さんがぶっこんで来た。
慌てて座布団から降りて、三つ指ついて挨拶する。
「大島綾と申します。武士さんとお付き合いさせていただいています」
そこまで言って、ふと思った。
お付き合いしてるけど、まだ私達はキスもしてない。
そこらの高校生よりプラトニックだ。
「式はいつにするんだ?」
「まだプロポーズのOKもらえてないから」
「それなのに挨拶に来ていただいたのか?
気の早いやつだな」
「プロポーズのOK貰ったらすぐに動きたくて」
ご両親に隠し事なんてさせて本当に申し訳ない。
でも、それでもこんな私を選んでくれたことを、後悔させたくないと思った。
挨拶は終始和やかに進んだ。
その日の晩、私は夢を見た。
蓮が、私の家に結婚の挨拶をしに来る夢。
現実にあったことと同じように、話が進んでいる。
「必ず、大切にしますから」
「うそつき!」
蓮の言葉に大声で言い返した自分の声で、目が覚めた。
嘘つき。
蓮の嘘つき。
大切にするって、幸せにするって言ったのに。
結婚もしないうちに別れるなんて。
ああ、でも。
結婚前でよかったのかもしれない。
離婚すると、戸籍に傷がついちゃうから。
そこだけは、蓮に感謝しないと。
カーテンの向こうはまだ真っ暗だ。
私は布団にくるまって、もう一度眠りについた。
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