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結局、仕事は退職することにした。
つわりがだんだんひどくなっていったのもあるけど、武士さんの強い意向によるものだ。
1日家にいると、暇だからか、今まで気にならなかったことが気になり始める。
たとえば、武士さんの帰りが相変わらず遅いこととか。
帰宅した武士さんのワイシャツから香る、仄かな消毒液の匂いとか。
たぶん、毎日お見舞いに行ってるんだと思う。
そんなに仲のいい友達なの?
男友達って、そんなに頻繁にお見舞いに行ったりするものなの?
モヤモヤが抑えきれなくなった私は、週末に由香とランチしに行って、このモヤモヤについて話した。
「うーん。確かに、いくら仲が良くても毎日お見舞いには行かないよね」
「でしょう?それに、私がそのことに触れると動揺するんだよね」
「嫁の妊娠中に浮気ってのはよく聞くけど、入院患者相手に浮気はないだろうし……あ、でも」
ふと思いついたように、由香が言葉を切った。
「相手が入院患者とは限らないよね」
「どういうこと?」
「看護師とか、医者かもしれないじゃん」
その発想は無かった。
「まぁでも、相手も仕事中だろうし、この線は薄いか」
「結局、モヤモヤだけ残るんだよね」
「まぁまぁ、もうあと数日で結婚式でしょ?しかも、入籍を急いだのは水野主任なわけだし、浮気ではないと思うよ。
綾はゆったりした気持ちで、式を挙げればいいよ。お腹の子にもよくないし」
「そ……だね」
確かに、母親の私がこんなに不安がってたら、お腹の子にも良くない。
まだまだ安定期まで日があるし、ゆったりした気持ちでいなきゃ。
「ありがと、由香。おかげで少し気持ちが楽になった」
「どういたしまして。お礼は水野主任の友達紹介してくれればいいから」
「あはは、言っておくよ」
私は少し楽になった気持ちで、お茶を飲んだ。
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