3 不穏

2/7
239人が本棚に入れています
本棚に追加
/92ページ
結局、仕事は退職することにした。 つわりがだんだんひどくなっていったのもあるけど、武士さんの強い意向によるものだ。 1日家にいると、暇だからか、今まで気にならなかったことが気になり始める。 たとえば、武士さんの帰りが相変わらず遅いこととか。 帰宅した武士さんのワイシャツから香る、仄かな消毒液の匂いとか。 たぶん、毎日お見舞いに行ってるんだと思う。 そんなに仲のいい友達なの? 男友達って、そんなに頻繁にお見舞いに行ったりするものなの? モヤモヤが抑えきれなくなった私は、週末に由香とランチしに行って、このモヤモヤについて話した。 「うーん。確かに、いくら仲が良くても毎日お見舞いには行かないよね」 「でしょう?それに、私がそのことに触れると動揺するんだよね」 「嫁の妊娠中に浮気ってのはよく聞くけど、入院患者相手に浮気はないだろうし……あ、でも」 ふと思いついたように、由香が言葉を切った。 「相手が入院患者とは限らないよね」 「どういうこと?」 「看護師とか、医者かもしれないじゃん」 その発想は無かった。 「まぁでも、相手も仕事中だろうし、この線は薄いか」 「結局、モヤモヤだけ残るんだよね」 「まぁまぁ、もうあと数日で結婚式でしょ?しかも、入籍を急いだのは水野主任なわけだし、浮気ではないと思うよ。 綾はゆったりした気持ちで、式を挙げればいいよ。お腹の子にもよくないし」 「そ……だね」 確かに、母親の私がこんなに不安がってたら、お腹の子にも良くない。 まだまだ安定期まで日があるし、ゆったりした気持ちでいなきゃ。 「ありがと、由香。おかげで少し気持ちが楽になった」 「どういたしまして。お礼は水野主任の友達紹介してくれればいいから」 「あはは、言っておくよ」 私は少し楽になった気持ちで、お茶を飲んだ。
/92ページ

最初のコメントを投稿しよう!