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翌日から早速、放射線治療が始まることになった。
通院のみで放射線治療をしている人も多いらしいけど、蓮は手術と抗がん剤で体力が落ちすぎているから、入院したままだ。
副作用で吐き気とか倦怠感とかあるみたいだけど、蓮は頑張る、と言ってくれた。
家に帰ると、武士さんがソファに座って私を待っていた。
「話したいことがあるんだ」
「うん。なに?」
だいたい、予想はついたけど、私は聞く体制をとった。
「同棲を、やめようと思う」
「うん、そうだね」
武士さんに甘えて、私は蓮に振られた傷を癒そうとしていた。
でも、私が蓮のもとに戻った今、武士さんと暮らしていくのは、不自然だ。
武士さんだって、毎日他の男のお見舞いに行って帰ってくる女を待つのは、流石に嫌だろう。
「今週中には、荷物まとめて自分の部屋に帰るから」
「………ごめん」
「私の方こそ、甘えすぎてたよね。ごめん」
「このままだと、俺、そのうち見舞いに行くなって言っちゃいそうだから……
綾は初めから、蓮のものなのに」
「私が落ち込んでたとき、助けてくれたのは間違いなく武士さんだよ。
愛してたのも本当。でも、このまま武士さんと暮らしていくのは、保険をかけてるみたいで、申し訳ないから」
「こんなこと言っちゃ駄目なんだろうけど、もし、万が一蓮に何かあったら、いつでも俺のところに戻ってきて」
「うん。ありがとう」
私たちは、最後のハグをした。
翌日、病院に行くと、蓮はちょうど放射線治療に行ったところらしかった。
私は引き出しを開いて、蓮が「もしもの時に読んで」と言っていた手帳を取り出した。
二人で行ったシンガポール旅行で買って以来、蓮が気に入って使っているシステム手帳だ。
今は「もしもの時」じゃないけど、私と再会するまでの間、蓮が何を考えていたか知りたくて、私は手帳を開いた。
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