1 突然の別れ

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水族館であちこち見て歩いて、私はマンボウの水槽に夢中になった。 何も考えてないような呑気な顔で寄ってきては、ふいっとあっちへ行ってしまう。 それが可愛くて何度も見ていた。 前にも、こんなことがあったな。 蓮に水族館に連れてきてもらったとき、ジンベイザメに夢中になって、ずっとその姿を追っていたら、蓮に笑われて…… あの頃は、こんなことになるなんて予想もしていなかったのに。 マンボウの水槽に向かったまま、涙が溢れだす。 慌ててバッグからハンカチを取り出そうとしていると、ギュッと武士さんに抱きしめられた。 「俺なら、泣きたいときはいつでも胸をかせる。泣かせるような真似もしない。だから、もうアイツじゃなくて俺を選んでよ」 「気持ちの整理がつくまで、もうちょっとだけ待ってください」 「ん。いーよ。待つから。その代わり、俺を選んでね」 更にギュウっと抱きしめられて、それから開放された。 自分でも、もう分かっていた。 二度と戻ることのない蓮よりも、ずっとそばで見守っててくれる武士さんの方がいいんだって。 武士さんと一緒にいるのは楽しい。 でも、蓮のことを忘れることが、どうしても出来ない。 蓮は、今でも私の心に棲みついてる。 私たちは手を繋いでゆっくり水槽を見て歩くと、そのまま家に帰った。
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