side 蓮

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とても気持ちがいい。 一面花だらけで、風が吹くたびに花びらが舞っている。 この光景、綾にも見せてやりたいな。 ああ、でもここはもうあの世とこの世の境目だから、綾を連れてくることは無理だ。 眩しい方向へ向かって歩いていると、どこからか赤ん坊の鳴き声がした。 どこから? 探していると、唐突に俺を呼ぶ声がした。 「蓮!」 聞き覚えのある声。 喧嘩したとき、いつもこんな涙混じりの声で、綾は俺を呼んだ。 振り返ると、綾が泣きながら立っていた。 その胸には赤ん坊が抱かれている。 「綾、なんでここに……」 「この子を、見送りに」 気がついたら足元に小川が流れていて、綾は小川に浮かんだ小舟に赤ん坊を乗せた。 「ごめん。ごめんね」 泣きながら言う綾の態度で、理解した。 この子は、綾のお腹にいた子だ。 「蓮、ごめん。お腹の子、守れなかった」 「俺のせいだ」 「違うの。この時期は流産もしやすいし、仕方なかったの。蓮のせいじゃない。私のせいなの」 泣きじゃくる綾を抱きしめて、俺は彼岸に流れていく赤ん坊を見送った。 「次の赤ちゃんを、大事にしてあげればいいよ」 「……今度こそ、蓮の子よ?」 「そうだな。俺の子を産んでもらわないと」 ザアッと風が吹いて、一面に花びらが散って俺は思わず目を閉じた。 「蓮、起きて!」 綾の声がして、俺はふっ、と目を開けた。 ぼんやり周りを見回すと、両親と綾、それに武士先輩がいた。 「もう、大丈夫ですよ」 医者の声がして、両親と綾は泣き崩れた。 「心配かけて、ごめん」 掠れたけど、ちゃんと言葉になった。 「綾………お腹の子は」 「……うん、ダメだった。ごめんね」 「次の赤ちゃんを大切にしてあげればいいよ」 夢の中と同じことを言うと、綾はびっくりしたような顔で俺を見た。 「………きれいな、お花畑だったね」 綾の言葉で、綾も同じ夢を見てたんだって気づいた。 「俺と綾は、やっぱり結ばれない運命だったんだな。やっぱり俺は、一生お前に勝てないよ」 「今度は、負けるつもりはないですから」 俺の強気な発言に、武士先輩は満足そうに笑った。
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