6 願い

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蓮が危篤に陥って間もなく、私は下腹部に激しい痛みを覚えた。 「うっ……」 「綾?」 武士さんが心配そうに声をかけてくれたけど、痛みで返事ができなかった。 太ももを伝う、熱い何か。 「看護師さんを……!」 それだけはなんとか伝えた。 流産しかけていることには、もう気付いていた。 私はすぐに当直の産婦人科医に診てもらえることになったけど、その頃には意識を失っていた。 遠いどこかで、 「お腹のお子さんは残念ですが……」 と誰かが話しているのが聞こえた。 ああ、やっぱり。 そう思った時、一陣の風が吹いて、私は一面の花畑にいた。 胸に、赤ちゃんを抱いて。 そっか。 赤ちゃんは一人では旅立てないから、私が見送りに来たんだな、と自然に分かった。 辺りを見渡してみて、よく知る背中を見つけた。 「蓮!」 蓮がここにいるという事は、蓮はもう旅立とうとしているということだ。 それだけは、なんとか阻止しなくては。 蓮は私を見て、驚いたような顔をした。 「綾、なんでここに……」 「この子を、見送りに」 足元には小川が流れていて、私は小川に浮かんだ小舟に赤ちゃんを乗せた。 「ごめん。ごめんね」 守ってあげられなくてごめん。 産んであげられなくて、ごめんね。 「蓮、ごめん。お腹の子、守れなかった」 「俺のせいだ」 「違うの。この時期は流産もしやすいし、仕方なかったの。蓮のせいじゃない。私のせいなの」 泣きじゃくる私を抱きしめる蓮と一緒に、彼岸に流れていく赤ちゃんを見送った。 「次の赤ちゃんを、大事にしてあげればいいよ」 「……今度こそ、蓮の子よ?」 「そうだな。俺の子を産んでもらわないと」 ザアッと風が吹いて、一面に花びらが散って私は思わず目を閉じた。
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