6 願い

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「綾、重いものは俺が持つから」 「これくらい大丈夫よ」 蓮のガンが寛解して6年目。 私たちは入籍した。 そして今、私のお腹の中には新しい命が宿っている。 「蓮にもしものことがあったら、俺が二人まとめて引き受けるから」 武士さんは冗談めかしてそんなことを言うけど、それが冗談じゃないことを、私も蓮も分かっている。 ずっと、こんなに愛してくれているのに、応えられずにごめんなさい。 心の中だけで思う。 5年の壁を超えたとはいえ、蓮はいつ再発するかわからない状態だ。 その時私は……どうするんだろう。 看病の甲斐無く旅だってしまったら。 あまり考えないようにしていることだけど、時折ふと不安になる。 でも、いくら不安がっていても、未来はわからない。 私は大きくなったお腹をそっと撫でた。 「綾。お腹の子の名前考えたんだけどさ」 お腹の子の性別は、すでに男の子だとわかっている。 蓮と私は名付けの本を見ながら男の子の名前を考えていた。 「武士先輩から一文字もらって、武にしようかと思うんだ。字画的にも問題なさそうだし」 「武。うん、いい名前だね」 お腹の子がポコンと蹴った。 「この子も気に入ったみたいよ」 クスクス笑いながら言うと、蓮はお腹を撫でながら、武、と呼びかけた。 入院中に蓮が書き溜めていた手帳は、今はドレッサーの引き出しにそっとしまってある。 蓮には内緒だ。 一心に私の幸せを願って書かれたあの手帳は、今も私の宝物だ。 これから先、何があっても、あの手帳を見れば、私は辛いことも乗り越えていける気がする。 神様。 どうか、これから先も蓮と生きていけますように。 おじいちゃんとおばあちゃんになるまで、幸せに生きていけますように。 私はそんな願いを祈りつつ、お腹に耳を当てる蓮を見つめた。
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