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俺がヒロイン
俺は、彼女に彼氏がいないことを初めから知っている。正直者の彼女の嘘ぐらい簡単に見分けられたのだ。
見せてくれる写真の彼とはもうとっくに別れていることも、甘えるときに肩にすり寄る癖も、キスより指を絡めるときに頬を赤くすることも、俺が寝ていると勘違いして泣きそうな声で気持ちをつぶやくことも、全部、全部わかっている。
スースーと寝息が聞こえてから、ゆっくりと目を開けた。柔らかなほっぺに残る涙のあとをそっと拭い、艶やかな髪をすく。総じてロマンチックなのは男が多いのに、なぜ悲劇はヒーローではなく、“ヒロイン”なのだろうか。
俺には初めから彼女なんていない。こうなるまでは度々遊んでいたけれど、心に決めていたのは彼女だけだとようやく気づいた。
「俺も愛してるよ」
分かっているけど、自信がない。堂々と言える日は来るだろうか。
無防備にすやすや眠りやがって。俺は力一杯抱きしめたい気持ちを抑え、壊さないように、そっとまぶたにキスをした。
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