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私がヒロイン
腕を絡ませながら、互いにスマホをいじる。彼の部屋着を借りて、同じシャンプーの匂いも纏って、合皮のソファに二人で沈んでいた。
部屋に響くのはテレビの音だけ。マンネリとかどうでもいいのに新しい下着をつけた自分を、私は滑稽に思っている。
「今月はいつ?」
目線を変えないまま彼が聞く。
「私はない。そっちは?」
寄りかかっていた肩から顔をあげると、彼は額にキスをして、私の頭を再び肩に引き寄せる。
「ない、次は来月」
「そっか」
ソファの冷たさが布越しに伝わる。お互いの恋人との予定を、あっさりと伝えあう。
「そろそろ寝よう」
その言葉にうなずいて、ベットに移動しても、シーツは冷たい。私はぬくもりが欲しくて、たくましい腕にしがみつく。そしてどうにもならない想いを確かめるように唇をはむ。彼はスマホを置いて、それに応えてくれる。
『本当は遠距離なんてしていないの 。』
そう伝えられたらどれだけ楽か。潰れそうな嘘だらけの胸は、それでも彼の熱っぽい視線ですべて溶けていく。
「もう離さないよ――」
吐息まじりのその言葉を、真に受けてしまったら?身体と想像の温度差に耐えきれず、うっすらと汗ばむ背中にしがみつく。
ごめんなさい、だいすき。
口にできない想いの代わりに、生温かい雫がひとつぶ零れていった。
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