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公舎のポーチに公用車を止め、全身にびっしょりと汗をかいた鷺沢を抱き上げた。その瞬間、バットで頭を殴られたような衝撃を受けた。
「うっ……」
「おまえ――」
まずい、と思った。手を離そうと思ったが、もう遅かった。
自分だけではない。
二人同時にそれが分かった。
――これは運命の番だ。
心臓が止まる。
理性が焼き切れ、全身の毛穴が開く。波打つような皮膚の衝撃を感じた。
胸がパンパンに膨らんで苦しくて息ができない。叫び出したくなるほどの強い衝動に襲われる。逃げられるものなら今すぐにでも逃げてしまいたい。けれど、体が動かない。少しでも動いたら口から心臓が飛び出してしまいそうだ。
眩暈と吐き気がして、喉が締まり、声が上ずる。
運命の番の発情にあてられたショックはそれほど激しいものだった。
「ここにいては……まずい。部屋に入りましょう」
「くるしい……」
鷺沢を抱き上げて玄関に押し入れた。自分も転がるように中に入る。鍵を閉めて叫んだ。
「すぐに注射を打って下さい」
「くそっ」
鷺沢は靴も脱がずに四つん這いのまま進んだが、廊下の途中で蹲った。お腹を押さえて何か呟いている。
「早くして下さい。お願いします。俺、もう無理です」
「うっ……」
「あなたを犯してしまいそうだ」
言ってもう無理だと思った。
それ以上に欲望に流されたくないと思った。
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