【9】ヒートの行方

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 もしこれが運命の番としてではなく、普通の恋人として始められるのなら、それが一番なのだろう。時間は掛かるかもしれない。けれど、鷺沢とはセックスから始めたくはなかった。  ――運命の番だからこそ、体ではなく心で繋がりたい。  正しい恋がしたかった。  真っすぐで完璧な恋を。  ――ああ……。  鷺沢の心音が聞こえる。  相手を意識して、また緩やかにお互いの鼓動が速くなる。ヒートではなく、ただ普通にドキドキしている。それが嬉しくてもどかしく、どこかくすぐったい。ずっとこうしていたくなるほど幸せな気持ちになる。  鷺沢のつむじから甘い匂いがした。鷺沢も健人の匂いを感じて安堵しているように見えた。健人がわずかに体を動かすと男の細い指先が背中に食い込んでくるのが分かった。制服の生地を通して熱が伝わってくる。そんなことが嬉しく、鷺沢の羞恥と率直な愛情を感じた。直情的な欲望よりも切実に、互いの想いが伝わる抱擁が続く。  落ち着いたところで鷺沢を抱き上げた。寝室まで運ぶ。部屋に入ろうとするとなぜか鷺沢が腕の中で暴れ始めた。 「どうかしましたか?」 「こ、ここでいい」 「え?」 「ここで下してくれ。ドアの前でいい」  なんだろうと思い、鷺沢を抱いたまま部屋に入ると不思議な光景が目に入った。  ベッドの上にかまくらのような山がある。よく見るとそれは、都会のカラスがゴミ捨て場から集めたガラクタで作った巣のように見えた。
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