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「これは一体……」
鷺沢をその横に寝かせながら眺める。Tシャツにハンカチ、ボールペンに万年筆。手帳の切れ端や使ってあるタオルまである。例の落書きも見えた。その巣は全て健人の持ち物でできていた。
「あ! ……あの日の……ハンカチだ」
ハンカチは二枚あり、一枚は出会った日に健人が公園のベンチに敷いたものだった。
「これってもしかして――」
健人が尋ねる前に、鷺沢は布団で顔を隠した。わあっと小さく叫んでいる。
聞いたことがある。
オメガは運命の番を見つけると、その相手の体の一部や大切にしているものを集めて巣を作る。発情期が近くなるとそうやって自分の居場所を作って過ごすようになるのだ。
「巣作りですよね、これ」
「…………」
「俺の匂いがするものを集めてたんですね」
どうりで持ち物がなくなるわけだ。これまでの怪現象が腑に落ちる。
「署長……俺のこと、滅茶苦茶大好きじゃないですか」
「…………」
「そうですよね、署長」
「わぁ……もう駄目だっ……」
布団の中からくぐもった声が聞こえてくる。健人はその布団をがばっと剥がした。真っ赤な顔をした鷺沢と目が合う。
「本能だ……私は……私は知らない……」
「嘘つかないで下さい。俺のTシャツにくるまって、毎日くんくんしながら寝てたんですよね」
「うっ……」
鷺沢の目尻がじわりと濡れた。
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