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二人で行きたい場所がたくさんある。したいことがたくさんある。
北海道へ行ったら、ヒマワリ畑の中で空色のアイスを食べよう。そして、風に揺れる花の陰でこっそり甘いキスをするのだ。帰ったら家族に鷺沢のことを紹介しよう。そして鷺沢の妹と自分の妹たちを会わせる。きっと仲良くなれる、そんな気がしていた。素晴らしい未来がすでに始まっている。これは予感ではなくて確信だ。
「これから毎年、花火は観覧できる。だから、今日は仕事をしろ」
「分かりました」
ふと、鷺沢が顔を上げる。はしゃぐ健人と視線が合った。
「……全く、おまえは素直だな」
鷺沢は溜息まじりにそう言うと、健人の目を見て笑った。
天使のように甘い微笑み。ふわりと柔らかいあの笑顔。
――ああ……その顔。
チラリと見せた鷺沢の表情は、なんとか警察官でいようと踏み止まっている健人を、仰向けの犬にしてしまうような笑顔だった。
――そう。
花火はまだ上がるんだ。
二人の夏はこれから始まる。
これからが、本当の夏だ。
(了)
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