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「署長、これ召し上がって下さい。横浜のお菓子、ありあけのハーバーです」
鷺沢は書類に目を向けたまま健人の方を見ない。
署長就任から一週間――。
健人は署長秘書としての仕事を懸命にこなそうと様々な業務の手助けをしていた。その努力もむなしく鷺沢は一人で淡々と仕事をこなしている。キャリアだから当然なのかもしれないが、鷺沢の実務能力は高く、以前の署長の倍のスピードで仕事を進めていく。今までならすぐに溜まってしまっていた未決文書があれよあれよという間に片付いていく。
「あの、俺は何をすればいいですか?」
ハーバーの包装紙を剥きながら尋ねる。
「おまえは菓子屋の回し者か。包装紙ぐらい自分で剥く。そこに置いておけ」
相変わらずの毒舌である。しかもこれは健人限定の悪口だった。
とりあえず、クリップボードに貼り付けられている文書を鷺沢が座っている執務机まで持っていき、決裁の済んだ文書を順に片付けた。電子決裁の書類もあるが、警察では付随する資料や報告書が多すぎるため、確認は書面で行うことがほとんどだ。
空いた時間で部屋を掃除する。電気ポットの中身と花瓶の水も替えた。
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