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その日、駒井健人は、友人の結婚式と二次会を終えて、両手に重い荷物を抱えたまま夜の歩道を歩いていた。健人の頭上に、三月も終わりの、瑠璃ガラスのような硬く透明感のある夜空が広がっていた。
――それにしても……重いな。
引き出物を入れた紙袋の紐が容赦なく手のひらに食い込んでくる。途中のコンビニで郵送してしまおうかとも思ったが、式のあった東京から自宅がある横浜まで送るのも馬鹿馬鹿しい。このまま自力で運ぶことを決め、地下鉄の出入り口を目指した。
引き出物が重いのには理由があった。
健人が出席した結婚式はアルファとオメガの結婚式だった。アルファとオメガが結婚することは稀なケースではなかったが、二人は「運命の番」だった。
この世で運命の番と出会える確率はわずか0.01パーセントだと言われている。アルファとオメガは今世で運命の番に出会えることを待ち望みながら、それが叶わず、運命の相手ではないアルファやオメガと、あるいはベータと一生を共にする。それが普通だった。
――確かに、いい結婚式だったな。
披露宴の様子を思い出した健人の頬が緩む。
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