【1】運命の出会い

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 健人の友人である鵜飼(うがい)はアルファで財務省のキャリア官僚だ。入省五年目にして本省係長の地位にあるエリートでもある。その相手はオメガの男性で財務省採用のノンキャリだった。二人は職場で運命の出会いを果たしたことになる。  ――そんなこともあるんだな。  高砂席に座った二人は終始笑顔でお互いを思いやり、視線や仕草に慈愛が満ちていた。神々しいほど美しく幸せな姿に、参加者たちからは溜息がこぼれるほどだった。両家の母親は感極まって涙を抑えきれない様子だった。それはそうだろう。運命の番から生まれる子どもはほぼアルファ、それも稀覯種(きこうしゅ)と呼ばれる特別なアルファだ。もちろん稀にオメガが生まれることもあるが、二人が番ったことで一族の未来はすでに約束されたようなものだった。 「俺も運命の相手と出会えればな……」  情けない独り言が洩れる。健人はアルファだったが、これまで運命と呼べる相手に出会ったことは一度もない。そもそもオメガの総数が少なく、現在は抑制剤でヒートと呼ばれる発情期を抑えながら日常生活を送るのが主流なため、発情しているオメガに出会うことがほとんどないのだ。健人がいいなと思う相手はたいがいアルファかベータだった。 「ああ、金髪巨乳のオメガにある日突然、曲がり角でぶつかったりしないかな」  想像して、自分の馬鹿さ加減にうんざりする。
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