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横浜まで電車で戻り、官舎に近い公園の傍を通り過ぎようとした時、不穏な空気を感じた。
布を擦るような音と喉が詰まったような呼吸音、安いスニーカーが地面を蹴る音、静かだがそこに暴力の雰囲気を感じた。警察官としての勘だけではない、健人の本能が嗜虐と欲望の匂いを嗅ぎ取った。放っておくわけにはいかない。健人は荷物を持ったまま公園の柵を乗り越えた。
慌てて現場に駆けつけると、一人の男に対して四人の男が取り囲んでいた。真ん中にいる細身の男は地面に膝を着いたまま俯いている。どうやら動けないらしい。
「おまえら、何してる!」
健人が声を掛けるとその中で一番体の大きな男がこちらを振り返った。
「なんだおまえ。あっち行けよ」
「何をしていると訊いてるんだ」
「説明が必要? 見れば分かんだろ。この公園がどういう場所か知らねぇの?」
「なんの話だ?」
よく見ると蹲った男の手首から血が流れているのが見えた。周囲の男たちから暴行を受けたのだろうか。
「怪我をしてるじゃないか」
「うるせぇな。おまえ何者だ? 邪魔するんなら、俺が相手になってやってもいいけど」
大柄な男が健人の胸倉をつかんだ。普段から喧嘩慣れしているのが分かる力の強さだった。それでも百九十センチ近くある健人よりは小さく、軟弱だった。
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