【7】告白

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「もう寝ろ。お互い酔っ払った」 「そうですね……」  鷺沢はやはり美しいだけじゃない、上等な男だと思った。こんな時でも健人に逃げ道を与えてくれる。だからこそ逃げたくないと思った。鷺沢ときちんと向き合いたいと思った。反射的に体が動く。  ――抱き締めたい。できることなら守りたい。  健人は鷺沢に近づいて、その体をぎゅっと抱き締めた。性的な意味ではなく、ただ気持ちを伝えるために優しく包み込んだ。  ――アルファとしてじゃなく、男としてでもなく、人としてあなたを助けたいんです。  伝わってくれと思った。伝わるといいなと思った。ただひたすら、そう願う。  鷺沢の体は小さかった。  繊細な息遣いとわずかに速い心音が聞こえる。  ――ああ……駄目だ……。  不意に心がうねり、この男が好きだと思った。単純に、純粋に、好きだと思った。  時間が止まる。  砂時計の砂が全て落ち切ったような静寂の中、二人の吐息と心臓の音だけが響く。鷺沢の鼓動だろうか。それとも自分の鼓動だろうか。二つの音は呼応するように高鳴ってどちらのものなのか、もう区別がつかない。抱き合っているだけなのに体が一つに繋がっているような錯覚を覚えた。  これが恋なんだと思う。キスもセックスもしていない、お互いの心臓の音を聞いているだけの触れ合い。たったそれだけのことで心と体が弾けそうになる。期待と不安と焦燥で、いてもたってもいられなくなる。  ――ああ……。  柔らかい髪が顎の下に触れ、甘い香りがした。自分のものとは違う体温が、愛おしくて切なくて、細い溜息がこぼれた。  胸が騒ぐ。  甘い春風のようだ。心地がいいのに、体の内側を嵐のように掻き乱されて、ドキドキふわふわする。二人で抱き合っていないと置いていかれそうになる。  ――本当に、心ごと持っていかれそうだ……。  鷺沢は抵抗することなく、両手をだらりと垂らしたままじっとしていた。  その指先がソファーの座面を小さく掻いた。鷺沢もまた甘い衝動に耐えていたことに、健人は気づいていなかった。
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