猫の国

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 主人と出会う前、飼っていた猫だった。鯖白模様の凛々しい顔をした男の子。  前の彼氏と別れてからの寂しさを埋めてくれたのが、甘えん坊のトラだった。  主人が猫アレルギーだったこともあり、初めての子育てしながら飼うのは無理だろうと、詩織を妊娠したことをきっかけに主人の実家で飼ってもらっていたのだが……去年、15歳で亡くなった。  猫にしては大往生なのだが、詩織が生まれてからというもの、子育てに追われ、主人の実家へ帰ってきてもあまり構ってあげなかったのが心残りではあった。 「ごめんね。ママが悪かったよね。本当はトラちゃんも甘えたかったんだよね」 「うん。本当はずっと傍にいたかった。でも我慢してたんだ。いつかママが迎えに来てくれるって信じてた」  ずきん。  心が痛む。 「……ごめんね」  それしか言えなかった。  お義母さんに面倒を見てもらっていたとはいえ、最後まで飼ってあげられなかったのは事実だから。 「仕方ないよ。ママも忙しかったんだよね。……でもボクも寂しかったんだ。だから……かおちゃん連れていくね」 「ごめんね。トラちゃんごめん。でもお願い! 香織は連れて行かないで」  香織の手を掴もうと必死に右腕を伸ばす。  だかあと少しというところですり抜け、トラとともに背を向けて行ってしまう。 「香織! 行っちゃだめ!」  引き留めたいのに身体が縛られているかのように上手く動かない。  二人が少しずつ遠ざかっていく。 「香織! トラ!」  にゃ~ん、と答える声が遠くで聞こえた。
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