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猫騒動
あたたかい。
顔の近くに妙にあたたかいものがある。
柔らかな光と空気の冷たさに、ぼんやりとしていた意識が戻る。
目に入ってきたのは古い板張りの天井。所々に染みがある。
--夢……か……。
悪い夢を見ていた。
香織が猫になって、どこかへ行ってしまうなんて、悪夢としか言いようがない。
視界のはっきりしない目で左側に顔を向けると、丸い暖かいものが目の前にあった。
香織の頭だ。
そう思って右腕を伸ばし、さらさらの髪を撫でる。
が--。
触った感覚がいつもと何かが違う。
さらさらの髪、ではなく。
ふわふわの、もっと細かな毛--。
「かお、りん……?」
目を凝らしてよく見ると。
香織の頭より大きな、白に茶と黒の斑模様の丸い物体が気持ち良さそうに伸びて、にゃあと鳴いた。
「猫!? なんで!?」
香織が寝ていたはずの場所に猫がいた。
一瞬、思考が停止する。
まさか……。
「かおりん!? ……まさか本当に猫になっちゃったの?」
思わず大きな声を出してしまい、私の右側で眠っていた詩織がう~んと唸って目を覚ました。
「ママ、うるさい……」
「詩織……、香織が猫になっちゃった……」
だが、詩織はまだ眠いのか、すぐに眠りについてしまう。
そこへわずかに開いていた引き戸がするすると開き、義母が顔を覗かせた。
「沙織さん、寝てるとこ悪いけど、こっちに……」
「お義母さん、香織が……! 香織が猫になっちゃいました」
一瞬、義母の目が点になったのがわかった。
あれ? 私、何か変なこと言った?
「かおちゃんならもう起きてるけど……。それよりマロンちゃん知らない?」
と、遠慮がちに部屋を覗き込む。
「…………いた! こんなとこ入っちゃ駄目でしょ、マロンちゃん」
と私の隣で寝ていた猫をひょいっと持ち上げた。
白地の茶と黒の斑模様の小太りのぶち猫はお義母さんの飼い猫、マロンだった。
「起こしちゃって悪かったね。マロンちゃんにごはんをあげる時にふと目を離したらいなくなっちゃって。かおちゃんが起きた時に少し開いた隙間から入っちゃったのかねぇ」
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