10人が本棚に入れています
本棚に追加
緒戦
寝不足のまま目覚めた哲治は、一つの思いに駆られていた。
(友達だな、まずは友達を作らないと大阪ではやっていけないだろう)
縁もゆかりもない土地で、中学男子が日々を平穏に過ごすには友人が必要だ。
もはや関東ではない。文化も風習も言語も違う。異国と言っていいのだ。
馴染む前に孤立したら大変だろう。転校を繰り返した哲治にはわかる。
遊びを通じて友人を作ろう、哲治の作戦はその程度だった。
「金やん蹴っ飛ばしたってお前か? 信じられんやっちゃなあ、見直したで」
哲治が転入した二年四組では、昨日の喧嘩が早くも噂になっていた。
転入初日は「関東者」という冷たい視線を受けた哲治だったが評価が一変したようだ。
「関東者は軟弱」という先入観のあるH市だからこその評価と言える。
「お前、部活どこ入るん? 柔道部来いや。俺推薦したるわ」
声をかけてきたのは近所に住む藤田浩二だった。クラスの人気者だ。
「いやあ、如月はサッカー部やろ、サッカーやってたっちゅうからなあ」
割り込んできたのは平野武だ。運動よりは勉強が得意なサッカー部キャプテンだ。
「陸上部頼むわ、部員少ないねん。明日からでもええで、来てくれや」
にこにこ笑いながら哲治と握手したのは伊藤真一。俊足のお笑い好きだ。お互い近所に住む彼らは仲良し三人組で、クラスでもつるんでいた。
(まあ、友達など三人で十分だな。まずはこいつらを手なずけよう)
後日、哲治は両親に頼んでご馳走を用意し、彼らを自宅に招待した。
たちまち四人は意気投合し、仲良し四人組になった。
「あんなあ如月、ちょっと困ったことがあんねん。聞いてや」
四中サッカー部と二中サッカー部で喧嘩になり、不良グループが絡んだという。
「どないしよ、今度の日曜に淀川の河川敷に呼び出されたんや、助けてくれ」
当日、河原ではサッカー部同士に不良グループが混じり、睨み合っていた。
如月以下四人は鉄橋の下に隠れつつ、一触即発ムードを見守っていた。
「平野に聞いておく。お前が守りたいのはサッカー部か? 四中か?」
「は? そんなんどっちもや。なんで今そんなこと聞くねん、アホか」
「サッカー部を捨てる覚悟があるなら俺が四中を勝たせる、いいな」
淡々と語る如月の表情に平野は戦慄し、つい頷いてしまった。
最初のコメントを投稿しよう!