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急転
「勝つには勝ったけど、あんなんでホンマによかったんかなあ」
端正な顔に少々の傷跡を残した藤田が首をひねりながらつぶやいた。
「お、俺が悪かったんや、如月に頼んだりしたから……」
学者のような顔立ちの平野はうなだれていたが、無傷だった。
「俺はよう好かんな、ああいう勝ち方は卑怯や」
小学生のような童顔の伊藤は怒りを隠さずに言った。
「終わった戦いよりも次の戦いだな、これで四中と二中は険悪になるぞ」
「お前よう言うなあ、転校生だからって無責任ちゃうか?」
無表情で諭すように語る哲治への嫌悪感を込めて藤田が言い返した。
「どうせ四中と二中は犬猿の仲なんだろ、決着をつけるなら早目がいい」
「うう、怖~! 如月は顔に似合わず怖いやっちゃなあ」
緊張した空気に耐えられない伊藤がおどけてみせた。
その晩、哲治の夢の中に、またあの老人が登場した。
「哲ちゃん、なかなかグーな戦いだったわよンフ~」
大きな顔を哲治に近づけて官助は鼻息を吹きかけた。
「雑兵同士の消耗戦を静観して最後に主力を片付けるなんて最高」
「でも、やっぱりああいう戦い方は卑怯だ……」
「何言ってんの? 哲ちゃんが考えた戦術でしょう?」
「そうなんだけど、後味が悪いよ……」
「アナタの言うとおり、終わった戦いよりも次の戦いよ、男らしくて素敵」
「男同士の全面戦争とか楽しみねえ、ワクワクしちゃうわアタシ」
数日後、哲治の机に手紙が入っていた。
「話があるから放課後に体育館裏に一人で来てくれ」
要約するとそういう内容であったが、哲治は念のために伊藤に偵察させた。
「如月、大変や、行かんほうがええで」
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