握った手

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欲しかったロボットは大人気で、近くのおもちゃ屋には売っていなかったのだ。 私はここでも我儘を言って、母とともに何件ものおもちゃ屋を回った。 それでも、いずれのお店でも目当てのロボットには出会うことができなかった。 「もうやだ。イタい! さむい!」 とうとう隣の市まで歩いたところで、私は歩道の真ん中で座り込んだ。 足はとうにくたびれていて、疲れがどっと溢れ出した。 寒さで手が冷たくて、痛くて仕方がない。 母は困った様子ではあったが、そっと私の手を握ってくれた。 「疲れたね博喜(ひろき)。お家に帰ろうか」 私に付き合わされた彼女の手も、冷え切っているはずだった。 しかし、その手には確かに温もりがあった。 そう。確かに、温もりがあった。 そして、現在。 「来てくれたのね。博文(ひろふみ)さん」 母は私のことをそう呼ぶ。 博文は、私が生まれてすぐに亡くなった父の名前だった。 病室の一角で、母はベットに横たわっていた。 深く刻まれた皺。白くなった髪。虚ろな目。 その体は、あの時の記憶よりもひと回りは小さくなったように見える。 私は呼ばれた名前を訂正することもなく、母の手を握っている。 硬くなった彼女の手には、懐かしい温もりがあった。 あと何回、この温もりに触れられるだろう。 私は、ふと病院の窓の外を眺めた。
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