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 裸で焼けた鉄板の上を歩かされた。税金が払えなくて。領主の屋敷の酒宴の出し物にされた。踊り狂うようにして暴れるまりを、酒を片手にした権力者たちは笑った。  娘を背負ってとなり村から歩いた。雪の山道。嫁に出したのが間違いだった。娘は夫となった男に嬲られ、死んだ。男手一つで大切に育てたのに。連れて帰ってやるからなと背中の亡骸に呟いた時に雪崩が起きた。まりは娘を抱きしめ、雪の洪水の中に飲み込まれた。  マングローブの森でワニを狩っていたことも、兵馬俑のような格好で戦争に参加していたこともあった。足裏の感覚から滲み出る感情で、その時々の『まりだった人間』の背景を知ることができた。まりは、数え切れないほどの人生を生きていたのだ。  記憶は欠片になってまりの中に存在している。男性だった時もあれば、女性だった時もあった。男性だった時にもあまりいい思いはしていないらしかったが、女性だった人生では際立って不幸な経験をしたようだった。 (女なんかにうまれたから)  真っ暗な闇の中から、そんな感情が浮かび上がる。中学生でうぶだったまりにも分かった。女性だったまりは、いつでも被害者だった。  身体を売って生きていた。乱暴され殺された。奴隷として陵辱された。どれもこれも短い人生。老婆であった記憶はひとつもない。  だからまりには分かってしまった。今生きているこの人生も、きっと短命で終わるのだろう。身体を弄ばれ殺される。すでにその伏線が張り巡らされているかのように、まりの人生は早い時期から困難を極めていた。どうせこの先も、いいことなんてあるはずがないのだ。 (なんのためにうまれてきたの)  その夜、祖母にしめ出された冬の庭で、まりは柿の木の根本に丸まって考えた。  命は巡り、死んでは生まれを繰り返す。その理屈をまりは知った。けれどだからこそ思う。どうせ死ぬのに、なぜ命は生まれるのか。苦しい生が終わりを迎え安息の地に還るのに、なぜまた命は辛いこの星に生まれい出るのか。
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