4

1/2
16人が本棚に入れています
本棚に追加
/30ページ

4

 それからまりは忙しくなった。男に犯されたことを騒ぎ立てなかったまりは、祖母のいい金づるになった。  日替わりで家に男たちがやって来た。大体は祖母のパチンコや麻雀仲間だった。祖母はまりにピルを飲ませた。それはきちんと病院で処方されたものではなかったが、妊娠という恐ろしいリスクを回避してくれるこの薬は、まりにとってはたったひとつの救いのようにも思えた。  副作用はあったが、気にならなかった。どうせ早くに死んでしまう人生だ。この薬によって死期が早まるなら、それに越したことはない。  簡単なパートに出ていた祖母はいつも家にいるようになった。そして、まりを「まりちゃん」と呼んで猫可愛がりするようになった。 「まりちゃんは、いい子ねえ。さすがおばあちゃんの孫。これからもずっと一緒に暮らしましょう。おばあちゃんを、楽させてね」  まりは毎日男に犯され続けた。それに大きな不満もなかった。祖母は優しくなり、お金の心配がなくなった。今までまりは母親の子供時代の服を着させられていて、ろくに散髪にも連れて行ってもらったことがなかった。学校の集金は祖母に殴られながら拝み倒して出してもらい、学用品は教室のゴミ箱からまだ使えるものを拾って使っていたのだ。  それに比べれば、天国のような生活。まりは綺麗に整えられた髪にリボンを結んで学校に行く。制服も買い直した。急に美しくなったまりは、男子の注目の的になった。  元々美しい顔立ちをしている。垢と貧しさと卑屈に固まっていたまりは、金を手に入れ本来の美しさを取り戻した。急に優しくなった周囲に、まりは思った。 (お金って、たいせつなんだ。お金があるとひとに怒られない。たたかれない。だから昔のわたしは、からだを売って暮らしていたんだわ)  もちろん仕事の間はおよそ楽しい時間とは言えない。最初は泣いてしまったり嫌悪感を顔に出してしまったりしていたが、そうすると男は不機嫌になり乱暴に行為に及ぶのだと知った。だからまりはスイッチを切ることにした。心のスイッチ。切ってしまえば、もう心の奥底にいるまりの本体は傷つかない。  その代わりに、まりの中にいる欠片たちが仕事をしてくれる。春を売って生きた女たち。その魂の欠片たちはじっくりと相手の男を観察する。そしてその男が喜ぶよう、穏便にことが運ぶようにまりを振舞わせ、無難に行為を終わらせてくれるのだ。
/30ページ

最初のコメントを投稿しよう!