ゆっくり浮き上がって来るかのように

3/9
前へ
/9ページ
次へ
 戻って来たら、三年生のみいちゃんが半べそになって「たかちゃんが、猫をばらばらにしちゃった」と訴えた。ぎょっとして覗くと、段ボールの中は空になっていて、猫たちはちりぢりに道やら空き地やら、走ったり歩いたりしている。まだら模様や縞模様が見え隠れする雑草の中、猫を捕まえるのは無理だった。    「どうしよう」  「ばらばら猫」  みんなはべそ顔になっている。    わたしは実はこの時点で、もう面倒くさくなっていた。  いつもペットが欲しいと言っている心の底では、借家では絶対に無理だと判っていた。どうせ今回の猫たちも引き取り手がなくて、どうにもならないことをどこかで分かっていた。  にいにいにゃーにゃー好き勝手に遠のいてゆく猫を眺めながら、わたしは「自由にしてあげようよ」と言った。小さい子たちはそれで納得して、お昼ご飯を食べにうちに帰っていった。  良い天気の日で、ロングTシャツが暑く感じた。 **  それから何日かの間、近所では、どこかでいつも猫の声が聞こえた。  逃げていった子猫のどれかが鳴いているのに違いなかった。  姿がちらっと見えることもあったが、捕まえようといても逃げてしまう。  登下校の時、車にひかれている子猫を見かけた。思わず凝視した。確かに見覚えのある毛の柄であり、大きさからいって、あの子猫のどれかに違いないと思った。  努めて考えまいとしたが、心がぐうんと重くなった。しばらくわたしは罪悪感に苛まれ、元気をなくしてしまった。     
/9ページ

最初のコメントを投稿しよう!

3人が本棚に入れています
本棚に追加