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小さな声がどこからか聞こえる。アパートの周囲で猫が子供を産んだらしく、ここしばらく子猫の声が聞こえていた。だけど野良猫はすばしっこくて、声はすれども姿は見えない。
車どおりも多いので、ひかれなければいいなと思いつつ、どうすることもできないままだ。幸いアパートの住人はみんな淡泊で、誰も餌をあたえたりはしていないらしい。たまに猫のものらしい便が落ちていることがあり、それを見ると嫌だなあと思う。
「糞が落ちてるってことは、誰か近所が餌をあげてるってことだろ」
旦那は無造作に言い切った。多分そうなのだろうと思うけれど、それが誰なのか追及したところで何かが変わるわけではない。
熱がひけた直後の、ぼうっと水を漂うような空虚な感じ。
台所にたち、お湯をわかしながら、さっきまで見ていた夢を思い出した。
子供時代の古い古い記憶がよみがえっている。
あの日、借家の前に置かれていた猫の箱。
時間は流れている。はるか遠い昔の事だ。でも今、わたしは悩ましく考える。一体あの箱は、誰がうちの前に置いたのだろう、と。
段ボールに猫を入れ、マジックで決まり文句を書く。この手段は子供じみていると、大人になった今なら思う。大人なら、いくら猫が生まれて困っていても、こういう真似はするまい。
ふっと夢の中に浮かび上がった、クラスの女子たちの悪口の言い合い。
猫死んだ。
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