桐嶋依子の受難

２

　それなりのシチュエーションなら、赤くなるセリフのはずだけれど、今冬馬が車を走らせているのはラブホ街だ。妙に生々しくて、引いてしまった。

　それに、いくら同伴者が夫とはいえ、平日の真昼間から弁護士がこんな所にいるなんて気付かれたら、世間からどんな目で見られるか…。

　胸元のバッジを慌てて外しているうちに、冬馬は迷いなく、あるホテルの駐車場に車を駐めた。

　車を降りると、後部座席から例の紙袋を取り出し、振り返りもせずに、そのまま建物にまっしぐらに向かって歩き出した。

　「ちょ、待って！冬馬！？」

　ラブホの駐車場(こんなところ)に置いてけぼりなんてあり得ない！
　慌てて冬馬を追いかけた。