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愛おしいだなんて、今まで一度も言われたことはない。
おまけに、あんな、見たことないほど甘い表情をされたら、嫉妬してしまいそうだ。
今まで、惨めで、消したい存在でしかなかった、あの日の自分自身に。
「そういうの…あの場で言って欲しかった」
「ん?」
「好き、とか、い…愛おしいとか…」
自分の言ったセリフを復唱されて、急に恥ずかしくなったらしい。
冬馬はほんの短い間、口元を隠すように手で覆った。
そしてすぐに、何か思いついたように顔を上げ、至極真面目に言った。
「…じゃあ、改めてやり直そうぜ」
「え?もういいよ!またさっきみたいに暴走されたら、本当にトラウマの上書きになっちゃうから!」
「今日だけはどんな恥ずかしいセリフもサービスで言ってやるから」
暴走しないとは断言してくれないのが不安で、
「いや、でも」
と、抵抗を続けても、冬馬には通用しない。
「まだ何も解決してねえし、このまま帰れるわけないだろ。
ほら、どうして欲しかったのか言ってみろ」
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