0人が本棚に入れています
本棚に追加
少し口を噤んで思考してから、なぁ、と切り出した。
「ファラは、どうやって帰るつもりなんだ」
少し驚いたように彼女はティーカップを持ち上げた。水面が大きく波打って、端から溢れそうになる。
「来た時と同じで、浮いて」
「かなり、危ないよ」
「別に死んでも、誰も悲しみません」
その儚げな表情に、いたたまれなかった。浮遊する彼女は、今にも天に消えて行きそうな雰囲気を纏っていた――僕は思わず、叫ぶように声を出していた。
「僕が、悲しむ」
それから数秒の沈黙。そしてファラの笑い出す声。遅れて赤面してしまう僕。何を言っているんだ、と我にかえり、恥ずかしくなってしまう。
「ルノさんは、その……寂しい、んですか?」
「失礼だな……でも、うん……。否定することは、できないかな」
仕事柄、誰かと雑談するなんてこともほとんどなかった。今も同じである。だからこそ、今日のファラとの会話は、僕にとって新鮮そのものだった。
「友達と呼べる人も、いない」
「……寂しい、ですね」
「同情するんじゃないよ、虚しくなる」
あはは、とファラが笑った。それから、ふわり、と机を跨いで、僕の隣に移動してくる。
「な、なんだよ」
「友達、第一号です」
え、と再度間の抜けた声を漏らしてしまう。やはり、彼女は楽しそうに笑った。
「友達、って……」
「また遊びに来ますよ」
ファラはそのまま、宙を蹴りながら扉の方に向かっていく。僕は唖然として、その場から動くことができなかった。
「じゃあ、ありがとうございました。お紅茶、美味しかったです」
僕の返答も聞かないまま、手を振りながら足早に扉の向こうに出て行ってしまった。そこでようやく彼女の言葉の意味を理解し、そして段々と頬が緩んでいってしまう。
「……友達、友達……か……」
久しく聞いていなかった言葉を口に出し、その響きを反芻する。そのたびに、嬉しくなってしまう。
最初のコメントを投稿しよう!