倥なるは愚かなり

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 少し口を噤んで思考してから、なぁ、と切り出した。 「ファラは、どうやって帰るつもりなんだ」  少し驚いたように彼女はティーカップを持ち上げた。水面が大きく波打って、端から溢れそうになる。 「来た時と同じで、浮いて」 「かなり、危ないよ」 「別に死んでも、誰も悲しみません」  その儚げな表情に、いたたまれなかった。浮遊する彼女は、今にも天に消えて行きそうな雰囲気を纏っていた――僕は思わず、叫ぶように声を出していた。 「僕が、悲しむ」  それから数秒の沈黙。そしてファラの笑い出す声。遅れて赤面してしまう僕。何を言っているんだ、と我にかえり、恥ずかしくなってしまう。 「ルノさんは、その……寂しい、んですか?」 「失礼だな……でも、うん……。否定することは、できないかな」  仕事柄、誰かと雑談するなんてこともほとんどなかった。今も同じである。だからこそ、今日のファラとの会話は、僕にとって新鮮そのものだった。 「友達と呼べる人も、いない」 「……寂しい、ですね」 「同情するんじゃないよ、虚しくなる」  あはは、とファラが笑った。それから、ふわり、と机を跨いで、僕の隣に移動してくる。 「な、なんだよ」 「友達、第一号です」  え、と再度間の抜けた声を漏らしてしまう。やはり、彼女は楽しそうに笑った。 「友達、って……」 「また遊びに来ますよ」  ファラはそのまま、宙を蹴りながら扉の方に向かっていく。僕は唖然として、その場から動くことができなかった。 「じゃあ、ありがとうございました。お紅茶、美味しかったです」  僕の返答も聞かないまま、手を振りながら足早に扉の向こうに出て行ってしまった。そこでようやく彼女の言葉の意味を理解し、そして段々と頬が緩んでいってしまう。 「……友達、友達……か……」  久しく聞いていなかった言葉を口に出し、その響きを反芻する。そのたびに、嬉しくなってしまう。
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