倥なるは愚かなり

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**********  ファラと名乗る少女は、宙に浮いているにも関わらず、地を踏んでいるかのように悠然と歩いていた。そのまま崖で話しても良かったが、万が一海や空の兵器と遭遇すれば、一瞬のうちに消し炭にされるだろう。ひとまず彼女を家に招くことにした。  椅子に座り、人体が浮遊するという原理を本人に尋ねてみるが、彼女は自嘲気味に笑うだけであった。 「これはただ、罰を受けただけですよ」 「罰、とは」 「神様も、良いものではないのです」 「どういう、意味だい」  宗教的な現象か、と思うがそれも違うという。当たらずとも遠からず、と付け加えられた。 「逆に、ルノさんはどうしてこんなところに?」  客人という手前淹れた紅茶を少し啜り、ファラは机に頬杖をついた。椅子に座っている体勢はとっているものの、その身体はやはり椅子には乗っていなかった。十数センチほど、その体躯は浮いている。 「別に……僕も、罰ってところかな」 「罰、ですか」 「ああ、もっと言えば、してしまったことへの後悔、かな」  僕も自嘲したが、ファラは少し俯いて、何かを考えるようなそぶりをした。 「とはいっても、僕が勝手にそうしているだけのものだけどね。ただの自己満足だ」 「後悔……、何か、あったんですか」 「やたらと詮索するものじゃないけれどね」僕が言うと、ファラは慌てて謝った。「いや、言葉の綾とは言え、お互いに罰を受けた身だよ。全然構わないさ」  君さえ構わなければ、と言いかけてやめる。それから、自分の紅茶を一息に飲み干した。あまり好きではない癖に、たまに飲みたくなってしまう代物である。 「……きっと、全人類が知っていることだよ。とてもじゃないけれど取り返しのつかないことさ」  だからこのような辺境な土地に逃げてきたのだ。言葉にはしなかったが、心の中で静かに呟いた。 「……それは私も、知っていることですか」 「さぁね、そこまでは言えない」  意地悪く言ったのは、それ以上言えば溢れてくるであろう恐怖を、必死に押し殺すためであった。きっと、君も僕のしでかしたことに恨みを持っている。  それに、煙に巻いて誤魔化したものの、間違いなく君も僕の罪を知っている。  君は、僕に報復しに来たのかい――そう目で尋ねたが、彼女は気づいていないようであった。
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