0人が本棚に入れています
本棚に追加
**********
ファラと名乗る少女は、宙に浮いているにも関わらず、地を踏んでいるかのように悠然と歩いていた。そのまま崖で話しても良かったが、万が一海や空の兵器と遭遇すれば、一瞬のうちに消し炭にされるだろう。ひとまず彼女を家に招くことにした。
椅子に座り、人体が浮遊するという原理を本人に尋ねてみるが、彼女は自嘲気味に笑うだけであった。
「これはただ、罰を受けただけですよ」
「罰、とは」
「神様も、良いものではないのです」
「どういう、意味だい」
宗教的な現象か、と思うがそれも違うという。当たらずとも遠からず、と付け加えられた。
「逆に、ルノさんはどうしてこんなところに?」
客人という手前淹れた紅茶を少し啜り、ファラは机に頬杖をついた。椅子に座っている体勢はとっているものの、その身体はやはり椅子には乗っていなかった。十数センチほど、その体躯は浮いている。
「別に……僕も、罰ってところかな」
「罰、ですか」
「ああ、もっと言えば、してしまったことへの後悔、かな」
僕も自嘲したが、ファラは少し俯いて、何かを考えるようなそぶりをした。
「とはいっても、僕が勝手にそうしているだけのものだけどね。ただの自己満足だ」
「後悔……、何か、あったんですか」
「やたらと詮索するものじゃないけれどね」僕が言うと、ファラは慌てて謝った。「いや、言葉の綾とは言え、お互いに罰を受けた身だよ。全然構わないさ」
君さえ構わなければ、と言いかけてやめる。それから、自分の紅茶を一息に飲み干した。あまり好きではない癖に、たまに飲みたくなってしまう代物である。
「……きっと、全人類が知っていることだよ。とてもじゃないけれど取り返しのつかないことさ」
だからこのような辺境な土地に逃げてきたのだ。言葉にはしなかったが、心の中で静かに呟いた。
「……それは私も、知っていることですか」
「さぁね、そこまでは言えない」
意地悪く言ったのは、それ以上言えば溢れてくるであろう恐怖を、必死に押し殺すためであった。きっと、君も僕のしでかしたことに恨みを持っている。
それに、煙に巻いて誤魔化したものの、間違いなく君も僕の罪を知っている。
君は、僕に報復しに来たのかい――そう目で尋ねたが、彼女は気づいていないようであった。
最初のコメントを投稿しよう!