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人間じゃない。その言葉が、どうしても僕への批判に聞こえる。
「……人でなし、かい」
「もしかしてルノさんのことですか? いやいや、ありえませんよ」
どうして、と尋ねるよりも先に、彼女が説明を付け加えた。
「地に足をつけて踏ん張って、それでやっと人間は一人前なんですよ。一人で立ててやっと、人間は人間なんです。私は、立つも座るもありません」
この通り、と椅子から下りるが、やはりその足は床の上に乗せられることはない。何度見ても、僕は何かしらタネがあるのではないかと疑ってしまう。
「私は、人間を辞めさせられただけです」
その表情には、もっと深い意味が込められているようにも感じた。
「……人間、ね」
僕は深く背もたれにもたれかかった。それは、人間とは何か、という彼女のなりの答えなのだろう。それはそれで良い。哲学的な問題に答えなど存在しない。
「僕は、僕自身も含めて、人間はつくづく業が深いって思ったよ」
「業、ですか」
「うん。人を騙してでも、あるいは騙されてでも、使命を果たそうとする。そうやって、気づかないまま罪を犯していた」
言いながら、金属臭の充満する研究室を思い出していた。日夜、人類のためにと生み出していた生物たちへの贖罪は、未だ終わることはない。
「……言い訳じゃないけれど、人間は総じてずる賢い生き物だよ。嘘をつく方も、それを信じる方も」
「ルノさんは、ずる賢いとは思えませんが……」
「ありがとう。いや、お世辞でも、嬉しいよ」
「いや、そんななんかじゃ」
「それよりも、時間とか大丈夫? 結構、話し込んじゃったけど」
時計を見ると、既に九時になろうとしている頃であった。かれこれ、夜明けを見たあとこうして三時間ほど話していたことになる。
「ああ、全然大丈夫ですよ。時間だけは腐るほどありますから」
ファラは少し俯いて、何か言いたげな表情をした。しかしそれを詮索するのも失礼かと思い、気づかなかったことにする。
「そうなの。――まぁ、僕も大概なんだけどね」
「人も、兵器のせいでほとんどいなくなっちゃいましたしね」
「っ……そう、だね……」
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