倥なるは愚かなり

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 それ以上、言わないでくれ。そう叫びたい衝動を押し殺し、震える手で空いたティーカップを机の端に寄せた。ファラもそれに倣い、同じように寄せる。  今地球にいる人類は、一体何万人、あるいは何十万人なのだろう。中には集落以外で生活する浮浪者もいるだろうが、そういった人がいると想定しても所詮はその程度しかいないというわけだ。 「待ってくれる人がいないっていうのも、寂しいですよね」 「……そう、だね」  思わず、同じ返答をしてしまう。とにかく話題を変えたいと、必死に埃をかぶった思考を全力で巡らせていた。  結局出てきたのは、孤独から逃げるための言葉であった。 「……まだ話すだろ? 紅茶、入れ直そう」  僕は台所から新しいティーバッグと熱湯を持ち出し、ついでに腹も空いてくる頃であるために菓子をいくつかポケットに入れる。 「あまりいいものでもないから、ちょっと恥ずかしいな」 「い、いえ、あまりお気になさらずに……」 「そうかい? 昼も近くなってきたし、あとでご飯作らないとだけど……」 「いえ、固形物は……」 「え――?」  唐突にそこで、眩しかった太陽が、一瞬だけ雲か何かに遮られたかのように暗くなり、そうしてまた明るくなった。  不思議に思って窓から空を見上げると、大きな影が目に飛び込んできた。  マズイ、と咄嗟に死角に隠れ、そのまま息を潜め、鳥の影が消えるのを待った。ファラが僕の方を見て訝しげに首を傾げる。 「どうしたんですか?」 「……兵器だ」 「えっ」 「大丈夫、見つかってない」  どこですか、と尋ねられ、空にいるということを指で示す。それからファラも同じように姿を隠した。大型鳥類の形を模した空撃機は、空中戦闘機と空爆機の二通りがいたが、肉眼で確認する限り前者であるように見える。ひとまず、爆撃の心配はないと安堵する。 「……旋回してる」  あの型は人の呼吸を微量に検知するタイプである。だが建物の中に入ってしまえばその精度も三割以下に落ち込む。それでもプロトタイプからは幾分かマシになった方である――まともに作られていれば、災害現場で生存者を発見するという未来があっただろうに。  僕はただ、彼に謝ることしかできない。 「……勇気だけでもあれば、別なのにね」 「まさか、戦おうっていうんですか?」
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