倥なるは愚かなり

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 ファラが僕を引き止めるように腕を掴んだ。か細い指、華奢な体格ではあるが、不思議とその力は強く、しかし強い意志を含んでいた。 「……大丈夫。そんな気はないよ」  そう言うと、渋々ながら腕を離してくれた。  鳥は何度目かの旋回の後、今度は高度を下げて崖に沿うように飛行を始めた。窓からは死角となる位置ではあるが、油断はできない。  彼の翼は海水で錆びたのか、遠くの方から金属の羽根同士の擦れ合う音が甲高く響いていた。 「もうすぐ、いなくなるさ」 「何故わかるんです?」 「……日々の観察」  思わずファラから目線を外してしまう。 「……本当ですか?」  僕はそれに無言で答えた。  鳥は四回ほど往復してからまた高度をあげ、どこかへ飛び去ってしまった。ファラとともに大きく溜め息をつき、それから二人で顔を見合わせて、生きてたと言い合う。 「まだ、この辺りにはたまにくるんだ」 「他の兵器は?」 「魚型は上手いこと崖で壊れてくれる。陸型はたまに来るけれどその時は屋根裏で」  僕は天井を指さす。戦いなんてとてもできないよ、と舌を出すと、ファラは妙に納得したように笑った。 「なんで笑うんだ」 「いや、ルノさんって動くのが苦手そうだから……」 「科学者はあまり動かないから、別に問題じゃないよ」  自分で戦う気がないから、兵器は生み出された、と僕は心の中で言った。少なくとも、僕をおだてて開発を進めさせた将校に戦意はなかった。そんな中、自律型知能を搭載した機械を作れば、あとはどうなるのか想像するのは難しくない。――当時、それを見抜けなかった僕も大概であるが。  あの将校がいなければ、あるいは、僕がいなかったら、これほどまでに人口が減ることはなかっただろう。 「……兵器が、可哀想だ」  独り言として言ったセリフであったが、ファラはその意味を知ってか知らずか、ただ僕の手を握りしめてきた。 「ルノさんは……兵器を、憎んでいるんですか?」  僕は首を横に振った。 「どちらかといえば、僕が、許せない」 「自己否定、ですか」 「正確には、助かろうとして独り逃げた自分が、許せない」 「ルノさんは、真面目なんですね」 「孤独になることで、罪滅ぼしになればと思ってたんだ」 「ちゃんと償おうと思っただけ、格好いいですよ」 「誰かが止めてくれれば。僕に、一言言ってくれれば――」
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