ある種の境地

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教室はいつも以上に、喧騒に包まれている。まあ、いたしかたない。なぜなら今日はクリスマスイブだからだ。 友達同士、又は恋人同士でクリスマスを楽しく過ごせることを、今から楽しみにして、興奮しているのだろう。 そんな中、一人でライトノベルを読みながらニヤけている男がいる。 ライトノベルとは可愛らしいイラストと読みやすい文体を売りにした、若者に人気あるジャンルだ。 教室等の公共の場で読むときは、ブックカバーを推奨する。 それは、表紙の女の子があざとく、媚を売ってるようなポーズをしているモノが多いからだ。 個人はウホッでも、他人はうへえーなんて場合も充分ありえる。羞恥心のある人間なら間違いなくブックカバーをするだろう。 しかし、この男は堂々と恥ずかしげもなく読んでいるのだ。流石としか言いようがない。 この男はいつだってそうだ。黄ばんだ前歯を出しながら、他人が顔を歪ませるような笑い声をあげている。 この男には、周りが見えているのだろうか……?まあ、それは杞憂であろう。 この男はボッチだ。ネタではなく真性のボッチだ。 そして、並みのボッチがそれを名乗るのを恥ずかしくなるくらいのボッチだ。あえて言おう、ゴッドボッチである。 この男にも名前はある。しかし、この男を表すときは、真の名よりもゴッドボッチのほうが俄然シックリとくる。 第一、この男は人から名前を呼ばれること自体ほぼない。ボッチだから。 お前は一体何者なのだ?なぜこんなにも一線を画しているのだ?
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