ある種の境地

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町は、すっかりロマンチックの集合体だ。 光輝くイルミネーション、クリスマスという一種の幻想に誘うクリスマスソング、ケーキの箱やフライドチキンの容器を片手に持つ親子やカップル。 しばらくすると雪が降ってきた。チラチラ、チラチラと……。 ゴッドボッチは手の平を広げて冬を感じる。季節の感触は男の心を動かす。 スーパーでケーキを買った。ホワイトクリスマスに白き甘美を求めたのである。 さらにクリスマスに入り込みたくなった。 男はカラオケボックスに行った。時期のためか、学生の集団がたくさんいた。見知った顔もあったが、お互い干渉はしない。それが自然の摂理というものだ。 ゴッドボッチはカラオケボックスの室内に入り、隠していたケーキを取り出す。 四人で食べれるサイズのケーキだ。ご丁寧にローソクとイチゴもそれにつけて。 ローソクに火を灯す。火のささやかな光が、男にとってクリスマスプレゼントのように思えた。 「恋人はサンタクロース」 ゴッドボッチはキレイのキの字もない汚い声で歌う。 クリスマスへ情熱を捧げているのだ。 片手にマイクを持って歌っている姿は、どことなく幸福そうに見える。 クリボッチ、フォーエバーボッチ、ゴッドボッチ。それがコイツという存在。 この男は誰からも理解されないのが運命なのか? なぜこうなった?どうしたらこうなる? 存在そのものが哲学だ。 コイツを解明しようと、隣にいてくれる人は誕生するだろうか……。 それは恐らくゴッドボッチの願いでもあると信じたい
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