僕の家族を探して…

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僕の家族を探して…

 さっきまで美味しいご飯の匂いが広がっていたリビングには、血生臭さが広がっていた。そんな中に、僕を抱き締めたまま彼女は床で寝ている。力強く、逃がさないように。身体を動かすのがやっとで、目の前が真っ暗。首や腰を左右に揺らして、顔を出した。同時にツン、と鉄の臭いが鼻を刺す。  彼女の上にはお母さんが覆い被さっていて、僕は二人の下敷きになっている。少し離れたところにお父さんが、仰向けになって二度寝をしていた。目は大きく見開き、優しい光は消えてしまっている。  ねえ、どうしたの? どうして動かないの?  僕が何度呼びかけても、三人は反応してくれない。返ってくるのは、僕が赤い水溜まりを歩いた時の音が、虚しく響くのみ。ピチャピチャと鳴らして、何かに躓いた。 『続いてのニュースです。一週間前に起きた一家殺人事件ですが進展がなく、捜査が難航している様子です。現場には、被害者達の血液を踏んだ猫の足跡が発見されましたが、現場には猫の姿はなく――』  薄く大きな板が光り始め、知らない人が何か喋っている。でも、三人は何も言わない。  僕は怖くなって、玄関まで駆けて行く。身体全体で押すと、ドアが開いた。小さな心臓が大きく鳴り、ドクンドクンとうるさい。  ここを飛び出せば、また独りぼっちになる。大好きだった家族と離れたくない。でも、皆はもう――僕の声に反応してくれない。  ごめんね、ありがとう――  僕はお礼を口にして、頭を下げた。頬を伝い、アスファルトを濡らした涙は、ほんのりと赤みがかっている。  踵を返し、宛てもなく歩き出す。僕の行き先は誰も知らない。彼女が追いかけてきてくれると信じて、赤い足跡だけを残して――
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