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いま、3分を切った
亮太の葬式が終わって7日、彼から宅急便が来た。
ご両親が気を利かせてくれたのかと思ったけど、宛先を埋める角ばった右上がりの文字は見慣れた亮太のそれだった。
彼は自分で、これを送ったのだ。
通夜だ葬儀だと右往左往する数日が過ぎ、アパートのリビングで彼を思う日々も終わり、ようやく日常に戻る気になったそのタイミングで、これが私に届くよう、日時を指定して。
A4大の封筒の口をハサミで開ける。
プチプチにくるまれた彼のスマートフォンが入っていた。
表面に貼ったポストイットに「はじめての日」と、やはり彼らしい右上がりの文字が浮かぶ。
丁寧にセロテープをはがしプチプチを広げ、スマートフォンを手に取った。
電源は……。入ってる。
しかし4文字のパスワードを入力するよう求められた。
あいにく私は彼ほど几帳面じゃない。
彼の言う「はじめての日」が、私が告白という物をした日、つまり彼が乙女のように頬を染め、視線をそらし頷いたその日の事じゃなかったら、この小さな冒険は早くも暗礁に乗り上げていただろう。
6年の交際期間で、彼は私という人間を正しく理解していたようだ。
0628という、私達が正式に「おつきあい」を始めた日付を入力すると、ホーム画面へと切り替わった。
送る前に削除したのか。
画面に並ぶのはメール、メモ帳、写真、有名な動画配信アプリといった限られた物だけ。
ツイッターはおろか、LINEも削除されていた。
次の指示を求めて「メモ帳」を開いた。
削除したのか、そもそも使っていないのか。
メモ帳はまっさらな状態だった。
つづいて「写真」を起動する。
一枚もなかった。削除したのだ。
少し気がとがめたがメールアプリを起動する。
これはさすがに残っていた。
とはいえ並んでいるのは、迷惑メールばかり。
たまに職場から転送されてきたらしいメールが混じるくらいだ。
友人とのやりとりはすべてLINEだったのだろう(私ともそうだ)。
ねんのため「下書き」フォルダも調べてみたが、メールはなかった。
動画配信アプリを起動する。「マイチャンネル」の中に一本の動画を発見した。
亮太が自分で作った動画で、鎖を模したアイコンはこれが一般に公開されてない事を表している。
これは私のためだけに作られた動画なのだ。
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