いま、3分を切った

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動画をタップし、再生する。 亮太がいた。 私のいない間にこの部屋で撮ったのだろう。 写っているのは肩から上で、カメラをまっすぐ見あげている。 その顔に笑みはない。 両手に白い板のような物を持っている。 美術に使うクロッキー帳だと気がついたのは、彼がペラリとその一枚をめくったからだ。 「ボクは知ってるよ」 クロッキー帳には大きくそう書かれている。 まさか……。 亮太が再びページをめくる。 「君は男と会ってる」 「この部屋で」 知らず、片手で口元を抑えていた。 亮太がかすかに微笑む。 まるで、私が見えているかのようだ。 突然、亮太の顔が大きくなった。彼がカメラに近づいたのだ。 「見たんだ、ボクは」 ささやき声の亮太が言った。 「なんか言った?」 「ううん。なにも」 亮太がカメラから視線をはずし声をあげる。 次の瞬間カメラにフレームインしてきたのは、私だ。 画面の向こうの私が亮太のネクタイを整える。 彼を心から愛している優しいカノジョを演じるために。 部屋を出る前、亮太はカメラに視線を向けた。 いつも自信がなさそうな、亮太らしい表情だった。 亮太に続き私もカメラの外へ出ていくと、動画が早回しされはじめた。 カーテンがありえないほど小刻みに揺れ、時折私が早足で画面を横切っていく。 私はスマートフォンをテーブルに起き、室内を見まわした。 キッチンの方角や、左端にかすかに映る熊本土産のゆるキャラから、カメラが置かれた大体の位置を予測し、見上げた。 亮太はいつからこんな事を……。 「お邪魔しまっす」 私は再びスマートフォンを手に取った。 なにが写っているかは判っている。それでも画面を確認せずにはいられなかった。
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