いま、3分を切った

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昭夫とは半年前に知り合った。2つ年下の青年で中途採用として入社。 告白されたのは、それからわずか一週間後だ。 恋人がいるから。そんな理由で引き下がる人では全然なくて、一度だけという約束でランチデートをする事にした。 彼のような男にとって「一度だけ」という言葉は「脈があります」と同じ意味だと、今は判る。 彼はこれまで以上に積極的になった。 そして実際、脈はあったのだ。 激しく求めあう私と昭夫の声が、スマートフォンのスピーカーを通し、この部屋に響く。 これは自分が発した声なのだ。 年下の男に身をゆだね、下卑た笑みを浮かべているこの女は自分なのだ。 動画を閉じようとした瞬間、画面が変わる。 ふたたび亮太が私を見上げていた。口元に弱々しい笑みを浮かべている。昭夫とは対象的な、かってはカワイイと感じていた笑みを。 「ホントは……。ボクが言いたかったんだ。つきあってくださいって。今日こそ言おう。今日こそ言おうって、毎日思ってた。でも……。ボクなんかに告白されても君は迷惑なんじゃないかって思うと、勇気が……」 亮太は昔から自己評価の低い人だった。 「だから。君がつきあおうって言ってくれたとき嬉しかったけど、悔しくて。せめていいカレシになろうって決めたんだ。優しくて、仕事よりも、友達よりも、君を1番に考える世界一のカレシになろうって」 確かに。 亮太は私が関わった男の中で、群を抜いて優しい、いいカレシではあった。 「ねえ。ボクのなにがいけなかった?ボクのなにが不満でこんな……。こんな事したの?君が喜ぶことはなんでもしたよね?ボクには……」 彼はそこで言葉をつまらせ、泣き始めた。 肩を震わせ、時折しゃくりあげながら。 親に叱られ泣く子供のようだ、とぼんやり思う。 5分程さめざめと泣いたあと、涙をぬぐい顔をあげた。 「さよなら」 画面がパッと暗くなり、動画が終る。 私はスマートフォンを置いた。
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