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「え?」と、イリューリアは、戸惑った。
イリューリアが分からないのも無理はなかった。
ローディ王子は三年会わない間に少年から青年に変貌していたのである。
背も二十センチ以上伸び、顔つきも体つきも逞しくなっていたのだから。
イリューリアは、見知らぬ貴公子に名を呼ばれ困惑したが、公爵令嬢である自分を呼び捨てにできる人間はそうはいない。
ましてや、異性で歳の近い知り合いなど、イリューリアにはそうそういるはずもなかった。
十二歳のあの日から学園にも通わず家庭教師のみで学び、屋敷に引きこもって過ごしていたイリューリアには人付き合いする相手など皆無なのだったのだから。
イリューリアは、はっとした。
「ま、まさか…ローディ王子殿下?」
イリューリアが驚き、王子の顔をみる。
二人の目と目が合い、イリューリアは、咄嗟に目をそらし口許を両手で隠すようにして頭を垂れた。
その手は小さく震えて明らかに狼狽えていた。
「お、王子殿下、お久しゅうございます。私ごとき者が王子殿下のお目を汚してしまい申し訳ございません。今すぐ下がらせて頂きますので、何卒、お許し下さいませ」と、震える声で言い、逃げるように、その場から走り去った。
「…っ!イリューリア!」
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