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巨大な暴力の塊が、みるみるうちに分解されていった。薄茶色の気流は、勢いを失い、霧散していった。ハリケーンに飲み込まれていた、木々や岩石、海辺の砂、葉の欠片たちが、遥か上空から、雨のように降り注いでくる。それはまるで、囚われていた島の住人たちが、嬉しそうな表情を浮かべて帰還しているかのように見えた。
程なくして、空は晴れ渡り、雲一つない瑞々しい青が広がった。だが、権平はそんな美しい光景には目もくれず、薄汚れた姿の少女を島中探し回った。
――結局、少女を見つけることはできなかった。
「かー! 腰いてー!」
巨大ハリケーンが来襲して、少女が姿を消してから一ヶ月後。権平はなぎ倒された森林の整備をしていた。と言っても、工具もなにもない彼にできることなど、精々細かい木々を一か所にまとめ、見栄えを良くする程度であったのだが。だが、それでも何もしないよりはマシであった。
「結局、あいつはなんだったのかねえ」
休憩がてらその場に座り込んだ彼の呟いた声は、吹き抜ける突風に溶けていった。
だが、彼は全く諦めていないのだ。少女と再び会える日を夢見て、彼は動き続ける。
この島の、守護者となりて。
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