漂流

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 権平は土から天に向かって伸びる、背の高い木々を恨めし気に見上げながら、歩を進める。完全に太陽光が遮断されていると予想していたが、葉っぱの僅かな隙間から漏れている木漏れ日が、薄暗い空間をわずかに色めかせていた。それはまるで、権平が生き残るための一縷の希望が、具現化したようであった。  権平は、学のない貧相な脳を総動員して、思案する。今の状況で、自分がとるべき最適な行動は何か。 まず、この島で生活している人間が存在するかどうかの確認である。もしいるのであれば、食料や寝床をもらえばいい。もしそいつらが、提供を拒むのであれば、恫喝でもなんでもして奪えばいい。そういうことには慣れているしな。  彼は、うんうんと胸の内で頷き、一人で納得した。しかし、問題はここが無人島であった場合だ。 「えーと、一番大事なのは水の確保、だったけか。水さえあれば、一週間、いや二週間か? それぐらいは生き延びられる。あとは、食えるもんと、寝るところと――」  誰に聞かせるでもなく、心細さや萎えそうな気持ちを誤魔化すため、彼はわざと口に出して、言った。  無計画に歩き続けて一時間後、寄り集まっていた木々が徐々に開けていき、黒々とした岩石が連なる場所へ辿り着いた。良く見ると岩石には綺麗な緑色の藻が付着しており、無機質感を和らげていた。 「おっ」  岩石の上を、足を滑らせないように進んでいた権平は、思わず声を漏らした。行き止まりかと思えた巨大な岩の壁に、空洞ができていた。洞窟だ。  彼は心を躍らせ、洞窟に入っていく。洞窟の中は学校の教室一つ分ぐらいの広さで、意外と狭かった。天井の高さは三メートルほど。アパートの一部屋と考えれば、寝床とするにはちょうどいい環境である。  権平は、精根尽き果てたかのように、洞窟の中心で仰向けに倒れた。背中に伝わる、ひんやりとした土の感触が、今は心地ちよかった。横になることで、無意識のうちに体に溜まっていた疲労が、表舞台に躍り出てきた。権平は、瞳を閉じた。とりあえず、目的の一つである、寝る場所の確保は達成できた。その安心感から、彼は再び起き上がることはなく、意識を手放していった。
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