漂流

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「がはっ!」  権平は、悪夢から目覚めた。ふざけるなよ。最後の最後で胸糞悪い光景を見せやがって。俺はまだ生きているんだ。彼は毒づき、上半身をあげた。  瞬間、左腕に違和感を感じた。何かが纏わりついているような違和感。目を向けると、褐色の少女が左腕にしがみつき、寝息を立てていた。 「……あ?」  権平は、疑問の声をあげた。なんだ、このガキは、と思った彼は、少女の頭を軽く叩き、起こそうと試みる。しかし、起きる様子のない少女に内心苛ついた権平は、ぽんぽんと叩いていたのを、ばしばしと叩いて、威力を強めた。 「うー?」  瞼を擦りながら、少女はようやく起きだす。 「よう、ガキ……じゃねえや、お嬢ちゃん」  権平は、営業スマイルを浮かべた。この笑顔は、借金取り立てのときに有効だ。最初は優しく笑顔で対応しておき、後に鬼の形相で追い込む。そうすると、最初の優しそうな雰囲気とのギャップで相手は混乱し、物事がうまく進むのだ。初対面の人間と接するときは、まずはこれだ。  しかし、少女はその笑顔にひどく警戒したようで、全速力で洞窟の外へ走っていってしまった。 「ちっ、勘のいいガキだぜ」  権平は、少女の走り去っていく背中を見ながら、立ち上がり、伸びをした。外を見やると、太陽は完全に昇りきっているようだ。昨日は疲れ切っていたせいか、丸一日寝ていたようである。  そして、逃げ出した少女の姿を思い浮かべる。少女は見たところ、十歳いっているかどうか、程度であった。胸部と下腹部は、薄汚い布一枚で隠しており、とても文明的な生活を送っているようには見えない。だが、これはチャンスだ、と権平は思った。 この島にも暮らしている人間がいるのだ。まずはあの少女を懐柔し、彼女の集落にでも連れて行ってもらおうと、彼は思った。  権平は洞窟をでて少女を捜索しようとしたが、その必要はなかった。外にでてすぐに、彼女が大岩の陰に隠れているのを発見したからだ。半身が岩陰からはみでている。 「お嬢ちゃーん! こーんにちはー!」  権平は、努めて明るい声で挨拶をした。が、しゃがれてかすれ切った声音は、胡散臭さを隠しきれていなかった。少女は、恐る恐る、顔をだす。
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