漂流

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 それから一時間後、不毛な鬼ごっこを続けていた二人だったが、権平はようやく少女を捉えることができた。さきほどの『ちちちちちちち作戦』を駆使したのだ。少女は、醜悪なスマイルさえ目に入らなければ、怯えることはないようである。  彼らは、密集した木々の中でも比較的開けた場所で、対面していた。 「よし、お嬢ちゃん、おじさんの話を聞いておくれ。君の、暮らしているところに、案内。僕、水と食べるもの、欲しい。オーケー?」  片言で話す彼に、少女は首をかしげた。伝わっていない。だが、日本語ですらぎりぎり話せる程度の権平には、これぐらいしかできなかった。今度は、苦し紛れにゼスチャーを織り交ぜた。『水が欲しい』は、コップに注いだ水を飲んで、こくこくと喉を鳴らす動き。『食料が欲しい』は、手に持ったなにかにかぶりつき、口をもごもごと動かすジェスチャー。 だが意外にもその行動が功を奏し、何かを閃いたような顔をした少女は、ずんずんと西の方角へ歩き出した。権平も自身の意図が伝わったことに安堵し、後に続いた。 「う!」  少女は、あるものを指さした。それは、権平の身長の半分ぐらいの大きさの岩で、深く抉れて窪みになっていた。そこに、きらきらと光る透明な水が溜まっていた。良く見ると細かい葉っぱが少し沈殿しているのだが、飲めなくはないようである。  権平はその水を見た瞬間、昨日からひどく喉が渇いていたのを思い出した。水たまりに両手を入れ、すくい、口に含む。からからの砂漠のような口内と喉を、水が通り抜けていく。彼は、何回も何回も水をすくいあげ、飲んだ。 「かー! 生き返る!」  満足した彼は、口元を乱暴にぬぐいながら言った。とりあえず、窮地は脱したようだ。
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