漂流

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 次に少女は、北の方角へ歩き始めた。楽しそうに、腕を大きく振りながら歩いている。 権平はついに、彼女の集落に案内してくれるのだと期待した。だが辿り着いた先にも人の姿はなかった。代わりに、背の低い木々に実っている、黄色と青色の、一口サイズの二種類の果物群が目に飛び込んできた。  またしても、満足げな顔でそれらを指さす少女を見て、権平は黄色い果物を一つもぎ取ると、口に放り込んだ。耐えがたい酸味が口全体に広がった。彼は思わず、ぺっと吐き捨てる。 「まじい! おいクソガキ! はめやがったな!」  権平は鬼の形相で詰め寄ると、少女はぴゅーっと向こうへ駆けていってしまった。 しまった、と思った権平は、再び彼女を呼び戻す奮闘を始めた。結局、彼女が戻ってくるのに三十分を要した。  その場に戻ってきた彼女は、権平に見せつけるように、黄色と青色の果物をもぎ取り、同時に口の中へ入れた。それをころころと飴玉の様に転がしている彼女は、目を細めて至福の表情をしている。  まさか、と思った権平は、少女と同じように、二種類の果物を同時に口内へ入れた。 甘い。天にも昇る様な甘さだ。理屈は分からないが、違う種類の二つの果物の汁を混ぜ合わせると、甘味に変化するようだ。二人はしばらく、果物を堪能した。  少女はまた、歩き出した。今度は南西だ。次こそは、次こそはと、権平の気持ちが膨れ上がる。が、辿り着いたのは、彼らが出会った洞窟であった。どういうことだ? と彼が不思議に思っていると、少女は洞窟の中に入っていき、横になって寝てしまった。権平の頭に、嫌な考えがよぎった。  ――まさか、この島に住んでいるのはこのガキ一人だけなんじゃないだろうな。 空を見上げると、全体が橙色に染まっており、すっかり夜が近づいてきているようである。 権平も同じように洞窟に入り、どかっと座り、胡坐をかいた。今後の展望を考えていたが、脳がオーバーヒートしてしまったようで、日が完全に沈むと同時に、眠りについた。
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