漂流

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 また夢だ。だが今回の夢は前回のと違い、ひどく抽象的であった。温かい何かに包まれている。体全体を伝うぬくもりは、彼に安心感をもたらした。死ぬまでそのぬくもりに包まれていたいと欲したが、夢の終わりが近づいてくるのを感じた。――目が覚める。  朝、目をあけた権平の目に飛び込んできたのは、褐色の肌。少女が権平の頭を胸元に抱え込んでいた。当の少女はその状態で、幸せそうに寝息をたてている。  気恥ずかしくなった権平は、強引に少女の腕を引きはがした。それでも、彼女は起きなかった。 「……俺は抱き枕じゃねーぞ」  そう吐き捨てながらも、彼は少女の肩まで伸びた黒髪を、指の間で優しくとかした。柄にもないことをしている自分に、胸の中で自嘲し、起き上がった。  程なくして起床した少女とともに、その日も島中を探検し、また一つ地形に詳しくなった。  結論から言うと、それからの少女との生活は苦ではなかった。彼女は言葉を喋れず、「うー」とか、たまに「あー」とか言っていたが、別に気にならなかった。日本で暮らしていたときの、反吐が出るような言葉を発する人間と過ごすよりかは、よっぽどマシである。  今日も今日とて、島中を歩き回り、美味しい果物や木の実を食べ、水を飲み、我が家のような洞窟に戻って眠る。寝ている間、権平はいつの間にか少女に抱きしめられているのだが、次第に気にならなくなった。抱きしめられている間は、悪夢から解放され、温かい夢を見られるからだ。  ――俺、ロリコンだったのか? と彼は自己嫌悪に陥ったが、別にそういう行為をしたいとは微塵も思わないため、まあ大丈夫なのであろうと、勝手に結論付けた。
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