第1章 出逢う季節

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第1章 出逢う季節

 ――背筋伸ばして。直央(なお)ちゃん。  不意に、祖母の口癖が頭に浮かんで、野宮(のみや)直央(なお)はあわてて顔を上げた。  緊張で、いつのまにか視線が足元に落ちていたらしい。軽く頭を振って、胸の前にすべり落ちていた髪を後ろに払う。背中の真ん中あたりまで届く、切り揃えられたくせのない髪は、さらりと揺れて静かにまとまった。  二か月前の入試のときには薄暗く感じた高校の廊下が、今日はなんだか明るく見える。入学式の華やいだ雰囲気のせいだろうか。  歴史ある、というより、ひたすら年季の入った天井を見上げ、周囲の生徒に気づかれないよう、こっそり深呼吸。入学祝いに買ってもらったばかりの水色のリュックを背負いなおして、直央は視線をもう一度上げた。  目の前の教室にかかる「1D」の札。
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