第4章 接近

2/62
90人が本棚に入れています
本棚に追加
/366ページ
「ナオ、荷物すごいねー。弓道部?」  三人が、直央を囲んで歩きながら、風呂敷のような布で覆われた右手の弓を見上げた。 「あ、うん。土曜日、道場練習だったから」  弓道部は毎週土曜日、隣の駅にある弓道場で稽古させてもらっている。  稽古などで弓を運ぶときには、弦を外して本体に巻きつけ、その上に弓巻(ゆまき)というカバー布を巻く(布を巻かずに、袋状の弓巻にすぽっと弓を入れる場合もある)。  元々丈の長い和弓は、弦を外してカーブを伸ばすとさらに長さが出るので、駅の階段や電車の中で、乗客や天井にぶつからないようにするのはひと苦労だ。 「これ、なに入ってんの?」  左右の耳に二つずつピアスを付けた香澄ちゃんが、矢筒を指でつついた。 「あー、矢じゃない?」 「結構重いじゃん!」 「先輩たちの分も運んでんでしょ? 弓道部厳しいよねー」 「だよね。一年っていっつも端っこのほうで、なんか米俵みたいやつに撃ってるよね。すごい近くから」  直央が返事をする前に、三人は勝手にどんどん答えを出していく(しかも正解)。
/366ページ

最初のコメントを投稿しよう!